今週の必読 週刊文春 掲載記事

低金利と株高政策がもたらしたもの

『バブル 日本迷走の原点』 (永野健二 著)

評者軽部 謙介 プロフィール

かるべ けんすけ/1955年東京生まれ。早稲田大学卒業後、時事通信社入社。同社解説委員。著書に『検証 バブル失政』など。

ながのけんじ/1949年東京生まれ。京都大学卒業後、日本経済新聞社入社。「日経ビジネス」編集長、大阪本社代表、名古屋支社代表、BSジャパン社長など歴任。著書に『官僚 ―軋む巨大権力』(共著)など。 新潮社 1700円+税

 一昔前、東京・麹町のホテルで「永野塾」と名付けられた小さな早朝勉強会が開かれていた。

 主宰者は本書の著者、永野健二氏。のちに首相となる政治家、著名な経営者、文化人など、一流の論客たちが講師としてこの勉強会にはせ参じた。著者が「伝説の記者」と呼ばれる所以(ゆえん)か。

 しかし、テーブルの周りに座った勉強会のメンバーは、講師の話よりも、具体的事例を資本主義という構造の中に位置付けようと格闘する永野氏の姿を印象深く覚えている。

 バブルという資本主義の宿命について書く際にも、著者は永野塾での姿勢を堅持した。

 読み進めば分かる。この本が固有名詞であの時代を語っていることに。登場するのは高橋治則、小谷光浩といった「バブル紳士」たちだけではない。田淵節也と野村証券、ピケンズと豊田英二、山一証券副社長の自死と三菱重工転換社債問題、「証券局を資本市場局にする」と構想した大蔵官僚の挫折などなど。

 そしてこれらの固有名詞は永野氏が「渋沢資本主義」と命名した日本独特の経済体制の変質過程に落とし込まれていった。

 奥行きのある視点が貫徹しているから「俗物紳士図鑑物語」で終わっていない。資本市場というフィールドでの出来事が、ある時はバブル拡大の背中を押し、ある時は膨張のきっかけに姿を変えるというように、マクロ経済の流れとどういう相互関係にあったのかもよく分かった。

 最後に著者は指摘する。

「日本のリーダーたちは、円高にも耐えうる日本の経済構造の変革を選ばずに、日銀は低金利政策を、政府は為替介入を、そして民間の企業や銀行は、財テク収益の拡大の道を選んだ。そして、異常な株高政策が導入され、土地高も加速した」

 この構図、今の状況に通じるものがないか。「伝説の記者」はこう警鐘を鳴らす。

「アベノミクスの動きは、バブルの序章である」と。

この記事の掲載号

2017年1月19日号
2017年1月19日号
「進撃の巨人(講談社「別冊少年マガジン」)」 元編集長の妻が怪死
2017年1月11日 発売 / 定価400円(税込)
関連ワード

永野 健二軽部 謙介

登録はこちら

週刊文春について 毎週木曜日発売 定価400円(税込)

※発売日・価格は変更の場合があります。