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「君の名は。」「逃げ恥」が高齢童貞・処女を救う

小石 輝 (コラムニスト) プロフィール

こいし てる/1964年、兵庫県生まれ。コラムニスト。映画や漫画など大衆作品の読み込みを通じて、世間を切るコラムを得意とする。

「もののけ姫」や「ハウルの動く城」を抜き、邦画では興行収入歴代二位に躍り出た映画「君の名は。」。一方、「ムズキュン」のキーワードで高視聴率を叩き出したドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)。今年を振り返る上で不可欠なこの二大ヒットには、現代の若者のメンタリティを映し出す共通の物語があった。人呼んで“サブカルの狙撃手”、覆面コラムニスト・小石輝が徹底分析する!

「あり得ない設定」で満たされる

 練り込まれたストーリー、美しい風景描写、高レベルの作画……。「君の名は。」ヒットの原因については様々な指摘がされている。だが、「もっと本質的な理由があるのでは」と思う人も少なくないだろう。

 私の考えでは、この作品が人々の心をわしづかみにした最大の理由は、「誰かにとって心から必要とされたい」「社会にとって役立つ存在になりたい」という根源的な二つの欲求を、「あり得ない設定」によって同時に満たす過程を描いたことにある。

 現実社会でこれらを満たすことが日本人、特に三十歳代以下の「若者」層の多くにとって、実現できるとは思えないほどの彼方にあるからこそ、「決してあり得ない自己実現の物語」が共感を呼ぶのだ。この作品の超ヒットは、実は日本の社会が重度の機能不全に陥っている表れではないか。

興行収入200億円超! 海外でも続々と評価が進む。全国東宝系公開中
©2016「君の名は。」製作委員会

「君の名は。」の主人公は、山深い町に住む女子高校生・三葉(みつは)と、東京に住むちょっと冴えない男子高校生・瀧(たき)。この二人が「眠っている間に人格が入れ替わる」という超常現象により、いきなり出会ってしまうところから、物語は始まる。

 恋愛関係に至るまでに必要な「友達関係から踏み出すためのきっかけ作り」「お互いの距離を近づけるための繊細なやりとり」「一気に距離を詰めるための大胆な振る舞い」……。二人は「入れ替わり」により、これらの面倒な手続きをすっ飛ばして、お互いのプライバシーや性格を隅々まで知り、支え合う。その結果、彼らは自然に相思相愛の仲になっていく。

 なぜ、このようなご都合主義的で幼稚とさえ思える展開が、多くの人々に支持されるのか。謎を解く鍵となるのが「恋愛下手な男女の一般化」という現象だ。

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この記事の掲載号

2016年12月29日号
2016年12月29日号
嫌われ蓮舫と十一人の“踏み台男”
2016年12月22日 発売 / 定価400円(税込)
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