今週の必読 週刊文春 掲載記事

世界を生き抜く羅針盤としての学問

『学校では教えてくれない地政学の授業』 (茂木誠、文化放送 著)

評者大熊 将八 プロフィール

おおくま しょうはち/1992年生まれ。東京大学在学中。競技ダンスで元学生日本一。著書は『進め!! 東大ブラック企業探偵団』。

もぎまこと/東京都出身。駿台予備学校世界史科講師。首都圏各校で「東大世界史」等の国公立系講座を主に担当。『経済は世界史から学べ!』『世界のしくみが見える世界史講義』『世界史で学べ! 地政学』等著書多数。 PHPエディターズ・グループ 1300円+税

 クリミア危機、「アラブの春」の頓挫とISILの台頭、イギリスのEU離脱決定そしてトランプ次期大統領の選出と、驚異的な速さで世界の歴史は予測不可能な方向に動いている。日本の周辺でも、中国船が頻繁に侵入する尖閣諸島問題を抱え、フィリピンで反米を掲げるドゥテルテ大統領が誕生するなど、予断を許さない状況が生まれている。従来の日米関係は変更を余儀なくされると言われる中で、我々日本人は当事者として適切な指針を持って一つ一つの問題に対処していくことが必要だ。そうした危機感を背景に、巷では日本史や世界史を学びなおす機運が高まってきた。しかし既存の教科書を読み解くだけでは、近年の国際情勢を理解することは難しい。民主主義が他の主義・思想に打ち勝ち平和がもたらされるという従来の歴史観では、激しさを増す民族紛争や領土問題、国際協調からの逆行に見える先進国の孤立主義に説明がつかない。このような状況下で闇雲に知識を増やしても、漠然とした不安が増すだけだ。茂木誠氏が本書でわかりやすくその基礎を解説している地政学は、我々の持つ不安の対象をクリアにし、正しく対処するための羅針盤となる。茂木氏は地政学を「禁断の学問」と呼ぶ。「お隣同士は仲が悪い」ものと割り切る徹底的なリアリズムに基づき、侵略や支配に「良い・悪い」という価値観を持ち込まないためだ。各国は自らが生存するために隣国の動きをけん制し、敵の敵は味方と見て合従連衡を繰り返す。この発想から国際情勢を読み解けば、日露や日印の急接近や、EUの分裂危機、南シナ海での中国の積極姿勢などが、合理的な一連の動きとして理解できるようになる。地政学の素養は、イギリス同様に海を挟んで様々な国に囲まれ、生存のための確たる戦略を必要とする海洋国家・日本の国民にこそ必要な武器である。本書は、初学者にもわかりやすい語り口で、各国の細部に至るまで網羅している必読の一冊だ。

この記事の掲載号

2016年12月15日号
2016年12月15日号
ユニクロ潜入記者 12月3日解雇されました
2016年12月8日 発売 / 定価400円(税込)
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