大衆酒場酔考譚 週刊文春 掲載記事

天平・鎌倉の歴史が薫る国分寺に、ろばた焼きの「函館あかちょうちん」あり

松尾 秀助

 JR中央線の国分寺駅に降り、南口商店街入口のビル地下へと大竹画伯は進む。「函館あかちょうちん」はろばた焼きスタイルの店だ。焼き台を囲む半円形のカウンター一八席と小上がりのテーブル席で都合四〇人ほどが入れる。

 メニューを検討しつつ焼酎ハイボール(三九〇円)を飲む。薄く琥珀色を帯びた甲類焼酎に強炭酸を加えると、コクがあってすっきりとした味わいの焼酎ハイボールになる。これが画伯の大好物だ。

 常連客のほとんどが注文するという「お好きな二品で六八〇円」(日替わり五品から選ぶ)の、海老チーズ揚とねぎまぐろ(海苔付)を注文。「うん、なるほどこれはお得だわ」と、さらに殻付かき酢とぼんじり串焼も。「今日のかきは三重産です」と看板娘のせいこちゃん。「ほー、サミットかきだな」と画伯。若槻洋社長(五五)が「うちの看板娘」と言うせいこちゃんはオン年七〇歳超ながら、一人でフロアをチャキチャキと仕切り、斗酒なお辞せずの酒豪。開店以来三三年たったこの店のアイドルであり続ける。

「もともとは函館にあった『函館あかちょうちん』の流れを汲んだ店がいくつかあったんです。その一つが国分寺北口店だったそうです。そこが南口店を出し、バイトから店長代理をまかされていた私に譲ってくれました。私は函館とは関係なく、店の名前だけです」(若槻洋社長)

 ろばた焼きのぶりかま塩焼(六九〇円)、にしん(五九〇円)、ピーマン(二九〇円)を注文。焼き台のお兄さんが焼き上がった品を手の長い箆(へら)の親玉に載せて出す。お兄さんが着ている作務衣の背に「凾赤de分寺」とある。「凾赤」は函館あかちょうちんと分かるが、国分寺の「国」はどこへ行った? よく見ると「凾」の中の左が「國」。右が北海道の地図だ。「シャレてるー。社長のデザインですか?」と画伯。箸袋に「酒(しゅ)に交わらば赤くなる」と書いたり、店のキャッチ・コピーを「ここにあったか こころあったか」としたり、この社長さん、なかなかの才人だ。

「ここは天平、鎌倉の時代からの史蹟が多く、そこを歩く方が帰りによく寄られます」

 近くにあった国分寺はもちろん武蔵国の官寺で国分尼寺とともに天平一三年、聖武天皇の「国分寺建立の詔(みことのり)」によって造られた。鎌倉時代には鎌倉街道が走り、恋ケ窪という宿駅もあり、今も町名に残っている。坂東武者・畠山重忠が宿駅の美しい遊女・夙妻太夫(あさづまたゆう)と恋に落ち、思い人が西国で戦死したと思った夙妻は世をはかなんで入水したという哀話から地名になったという。

 日本酒に変えて、画伯はさらに刺身七品盛り(二七〇〇円)、あさり酒蒸し(四九〇円)も奮発。せいこちゃんのスケッチに励む。

 すっかりいい心持になった画伯いわく、「世が世なればボクだって凛々しい坂東武者となって国分寺に参拝して、御仏のお導きによって国分尼寺の美しい尼僧と恋に落ち、手に手をとって恋ケ窪――なんてことに……」

 なりません!

※お店の情報や値段は取材当時のものです。

イラスト・大竹雄介

提供:宝酒造株式会社

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2016年6月30日号
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2016年6月23日 発売 / 定価400円(税込)
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