大衆酒場酔考譚 週刊文春 掲載記事

ヤネセンの日暮里に串揚げ居酒屋「波MAKASE」のレゲエが流れる

松尾 秀助

 日暮里のJR北改札を出ると、すぐ月見寺こと本行寺がある。日暮里崖線の上で、眺めがいい。太田道灌はここに物見台を造った。東の低地は一面の青田。

「青い田の露をさかなやひとり酒」と詠んだ小林一茶の気分で大竹画伯はふらりと「波MAKASE」のドアを開ける。もうちょっと先は有名な「夕やけだんだん」だ。

「この辺から下の谷中銀座商店街が有名になったのはこの一〇年くらいです。それまではまったく知られていませんでした」と言うのは店主の大宮俊英さん(四六)だ。串揚げの店を出して一五年。口髭をたくわえたいい男。店を出す前は上野の、とんかつ屋で一三年間修業をしていた。千葉出身で、九十九里浜の大波に乗って、サーフィン三昧の二〇代。奥さんの実家が近いヤネセン(谷中・根津・千駄木)の元寿司屋を改造してその名も「波MAKASE」として串揚げ居酒屋を開いた。

「東京に多い串揚げ屋はストップと言うまで出し続けるけど、ここはもっと居酒屋風にしたいんで、一品料理にも力を入れました」(大宮さん)

 大竹画伯は焼酎ハイボール(強炭酸がうれしい。三八〇円)を飲みつつ串揚げ盛合せ(六本盛九〇〇円)をぐいぐい。フィレ肉でチーズを巻いたり、キスでカニカマを巻いたり、仕込みに芸が細かい。

 特製ソースと塩、マヨネーズ、味噌のタレ。二度づけ禁止よ。でも大阪とは違います。焼酎ハイボールは基本は缶だが、そこにちょい足しすることで、抜群のおいしさになる。よく冷やしておいて氷はなし。

 なるほど一品料理も豊富で、ポテサラコロッケ(二五〇円)、長芋の千切り(三八〇円)、デミグラハンバーグ(四五〇円)などなど。画伯は片っ端から頼んで、焼酎ハイボールをどんどんお代わり。

「波MAKASE」というだけあって、店内には大波の写真とボブ・マーリーの肖像画。流れるのはもちろんレゲエだ。バリ島で波乗りしたおみやげのガルーダ木彫りとか、雰囲気たっぷり。成田空港から日暮里まで京成線で直通なので、外国人客も多い。

 日暮里は「ひぐらしの里」というだけあって、江戸期から俳人などが訪れた。寺町なので戦災からも免れ、この店も築五〇年以上の長屋だ。今は町歩きの名所になったが、開店一五年になってすっかり町会に溶け込み、ランチのとんかつ定食、らふてぃー丼定食が人気に。奥さんも人気の一因かも。

「かみさんにもサーフィンをやらせてみましたが、ダメでした。私も今は子供たちと海水浴に行くくらいで、海とは遠くなりました。サーファー仲間も店に来てくれますが、日焼けの色がぜんぜん違います」(大宮さん)

 それでも色白自慢の画伯にくらべれば、レゲエ色に染まったいい男なのでした。

※お店の情報や値段は取材当時のものです。

イラスト・大竹雄介

提供:宝酒造株式会社

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