大衆酒場酔考譚 週刊文春 掲載記事

五反田駅西口の「小料理 清竹」は、家庭的居酒屋になって大繁盛

松尾 秀助

 JR五反田駅西口を出ると、桜田通り(第二京浜)。渡って線路沿いに近い路地を入ると、左手に「小料理清竹」がある。「小料理とくると、ちょっと気がひけるけど、店前にズラッと瓶入り焼酎ハイボールの写真が並べてあるから、気安く入れるね」と、大竹画伯が玄関を開ける。

 ご夫婦でやっているカウンター七人、四人掛けテーブル三つに小上がりの店。まず焼酎ハイボール(二八〇ml四五〇円)を注文。氷入りグラスと瓶が供され、画伯は手酌でグイッ。

「旨いねえ。炭酸に力があるような気がする。昭和二〇年代に下町で流行ったチューハイを再現した味だよね」(画伯)

 ご主人・秋山哲也さん(五五)におすすめメニューを尋ねると、「手羽ぎょうざですね。一回食べたお客は、まずほとんどがまた注文してくれます。居酒屋ではあまりないメニューです。手がかかるんですよ」

 その手羽ぎょうざ(二本五〇〇円)を注文。なんでも以前はメニューにあったが、手間がかかるので止めていたところ、常連客から、「手羽ぎょうざないの?」「いつになったら出すの?」と催促され、またメニュー化したところ大好評となった。熱々の揚げたてで、手羽先をアルミホイルで包み、ぎょうざタレで頂く。うまい! 画伯はホイルを剥いて手羽先まで齧(かじ)る。焼酎ハイボールが進む。

 この「清竹」は哲也さんで三代目。祖父母、父母が育ててもう六〇年以上になる。哲也さんはサラリーマンの後、三年間ほかの店で修業し、二七歳のとき、店を継いだ。「継ぐつもりはなかったんですが、親が体を壊したもんだから」。でも、子供の頃から馴染んだ店。常連客も優しく盛り立ててくれた。

「先代までは母親が和服を着て高級感のある小料理屋だったんですが、私の代で普通の居酒屋にしました。女房と二人で、家庭で作れるメニューだけでやっています」――たとえばこれ、と勧められた「ウィンナー玉子炒め」(五〇〇円)を頂く。何気ないが、おいしい。客が、「ウチのに作らせたんだが、こんなに旨くない」と言うのに哲也さん「奥さんに五〇〇円払ってごらんなさいよ。そしたらおいしくなります」。なるほど、気分の問題か。「やわらかいあたりめ」(五〇〇円)は、年配のお客も食べやすいようにと、あたりめを酒と醤油に漬け込み、湯で洗って焼いたもの。うーむ、柔らかくて、味がしみてる、と画伯。

 五反田は東口のゆうらく通りが賑やかだったが、近頃はこの西口に人気が集まる。日本鉄道品川線(山手線の前身)は渋谷から大崎まではもっと西南側の目黒川低地帯を通るはずだった。コストをかけて東の山を削り、トンネルを掘って現在の路線にしたのは、目黒川沿いに火薬製造工場があったためだ。目黒と大崎の間に遅れて五反田駅が開設されてから、工場が増え、東急池上線が開通して勤め人が帰宅前に一杯やる店ができた。「清竹」は当時珍しい小料理屋だったという。

「でも、僕としてはこの家庭的なメニューと焼酎ハイボールの店になって、嬉しいですよ。いつまでも竹のように清々しく。僕の名前のようにね」と大竹画伯は今夜もご機嫌なのだった。

※お店の情報や値段は取材当時のものです。

イラスト・大竹雄介

提供:宝酒造株式会社

この記事の掲載号

2015年11月26日号
2015年11月26日号
東京がテロの標的になる日
2015年11月18日 発売 / 定価400円(税込)
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