大衆酒場酔考譚 週刊文春 掲載記事

新潟・豚のもつ焼き文化の先駆者「みやこや」は今日も超満員

松尾 秀助

 新潟駅の南口、美しいけやき通りを東に行ってすぐの「みやこや駅南店」が画伯お目当ての店だ。

「南口は新しいビル街で、あんまり居酒屋がありそうじゃない町並みだけど」と画伯が「みやこや」を経営する「みやこ商店」の営業部長・伊藤欽一(よしかず)さん(四六)に言うと、「そうなんです。新幹線が来る前は草ぼうぼうでしたよ。最近やっと開発が進んでオフィス街と住宅街がうまく落ち着きました」。

 まずは酎ハイを。金色に輝き、甘い香りが引き立って、ゴクゴク飲める、と画伯は早くもおかわり。営業部長の弟で店長の伊藤修久(のぶひさ)さん(四二)おすすめの串盛り合せ(一〇本一二〇〇円)、キムチもつ煮込鍋(四四〇円)、十全なす漬け(三八〇円)を所望。

「えーっ、このなす漬け、果物みたいにうまい!」と画伯は驚く。黒埼産の枝豆(五〇〇円)も名物。画伯の手が止まらない。

 みやこ商店は新潟市内で六店の居酒屋をやっている。名刺にも店の看板にもある豚ちゃんが串を手にしたトレードマークが示すように、豚の内臓肉の串焼きがメインの居酒屋だ。

「祖父が、それまで捨てていた内臓肉がもったいないと、串焼きにして肉体労働者に安く提供し始めたのが六二年前の昭和二八年。当時の写真を見ると、やきとり一本五円とあります。店を増やすと同時に内臓肉の販売も始めて、今日に至っています。祖父は三年前に亡くなりましたが、屠畜場に通って、『豚の命を頂いているんだから、鳴き声以外は無駄にするな』と言っていました」(伊藤欽一さん)

 鶏の串焼きもメニュー豊富で、「おいしさアップ炭火焼」とある。店長の修久さんは大汗かいて焼き台でがんばっている。カウンターも小上がりも一杯で、地元の爺様グループ、おばさんグループ、カウンターに若いカップルと、老若男女さまざま。「オフィス街のサラリーマンが中心ですが、週末は住宅街の家族連れも多いですね」と営業部長。ここも開店して二五年目となり、常連客も定着している。

 このあたりは以前は沼垂(ぬったり)と呼ばれた地区で、歴史は信濃川の北側の旧新潟町よりはるかに古い。江戸時代はともに湊として栄えたが、様々な権利を争って仲が悪かった。明治一九年に万代橋が架かって、行き来が盛んになり、沼垂町も新潟市に組み込まれた。ただ、新潟市の中心だった古町あたりから、南の新潟駅周辺に賑わいが移りつつあるのが現況らしい。

 画伯は酎ハイを飲みながら、フロアのお姐さんたちをスケッチ。背に「みやこや」と染め抜いたTシャツに、赤いエプロン、赤いバンダナを頭にかぶって立ち働く姿は甲斐甲斐しい。

「中越大地震のとき、祖父が出身地の小千谷市川口町の小学校の校舎を借りて、温かいものを食べて元気を出してほしいと、やきとり五〇〇〇本、煮込み五〇〇杯分を運び込みました。昭和三九年の新潟地震で支援に来た人たちが店でよく食べてくれた記憶もあったのでしょう」(伊藤欽一さん)

 やきとりと煮込みを有難く頂いて元気をもらった画伯は、新潟美人の探索へ向かうのだった。

※お店の情報や値段は取材当時のものです。

イラスト・大竹雄介

提供:宝酒造株式会社

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