著者は語る 週刊文春 掲載記事

物流業界の光と影

『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン』 (横田増生 著)

社会的インフラとも言える存在になった宅配ビジネス。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社は苛烈なシェア争いを繰り広げ、さらに送料無料で即日宅配もするネット通販の隆盛で、宅配現場は壮絶を極めていた。宅配ドライバーの助手や、物流センターの倉庫係のバイトとして潜入し宅配業界を明らかにする。 小学館 1400円+税

「突っ込みどころ満載だったのに、誰も突っ込んでいなかったんです」

 アマゾン・ドット・コムの物流センターに潜入したり、ユニクロの内幕を独自取材で明らかにしたりしてきたジャーナリストの横田増生さん。このたび『仁義なき宅配』を上梓した。宅配便業界トップ3社(ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便)の歴史と実態を1年半におよぶ取材で明らかにした。物流業界をテーマに選んだきっかけは、妻が利用していた靴のネット通販サイトだった。

「靴のサイズが合わなかったり、イメージと違ったりしたときは返品できるんですが、一足も買わなくても、送料も返品も料金がかからない。なんで無料なのか、疑問に思ったんです。一般読者向けの宅配関連の本は、成功した経営者が語ったものは出ていますが、取材して書いたものはほとんど出ていませんでした」

 だが、いざ取材を始めたら、難航した。ヤマト運輸が取材を受けようとしなかったのである。

「クール宅急便の不祥事があるので、1年は無理だと言われました。でも、日経新聞の取材は受けていた。いいイメージで書いてくれる人には手厚くても、僕の取材は受けたくなかったんでしょう」

 横田さんはツテをたどり、関係者に話を聞いていったが、ヤマト運輸の全体像をつかむには程遠く、途方に暮れたという。

よこたますお/1965年福岡県生まれ。アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号取得。物流業界紙「輸送経済」記者、編集長を務め、99年よりフリーに。著書に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』『ユニクロ帝国の光と影』『評伝 ナンシー関』など。

「やめようかと思っているとき、物流拠点なら潜入できるんじゃないかと考えたんです」

 東京・羽田にある最新の物流ターミナル「羽田クロノゲート」でバイトを始めたら、驚くべき実態が浮かび上がった。

「これまでアマゾンや佐川急便にも潜入しましたが、一番働いていて嫌だったのがヤマトでしたね。私が働いたところは、作業が複雑なのに、事前の説明は一切なく、間違うと怒られました。一晩キリキリ働いて9000円にもならない。契約も2カ月で切れてしまう。働き手の半分は外国人でしたが、いつか外国人にとっても魅力的ではない日が来るでしょう。そのとき、誰が宅配を担うのか」

 宅配業界では1個当たりの運賃が250円以下になると利益が出ない構造になっているという。だが、ネット通販の市場が拡大するにつれ、トップ3社が値下げ合戦を行い、宅配便を取り巻く環境は限界に達しつつある。過剰なシェア争いのツケがまわってきているのである。

「週刊文春」編集部

この記事の掲載号

2015年10月22日号
2015年10月22日号
アベノミクス新三本の矢 ああ「一億総活躍」 という名の的外れ
2015年10月15日 発売 / 定価400円(税込)
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