大衆酒場酔考譚 週刊文春 掲載記事

「一般労働大衆様味覚御用達」が売り物の新潟駅前「天下一」

松尾 秀助

 北陸新幹線も開通し、日本海側の都市が元気だ。大竹画伯は「東アジアの文化都市」を標榜している新潟駅に降り立った。東側の連絡通路を北の万代口方面に。階段を降りたところの角に居酒屋「天下一」がある。

「ふむふむ、ポケットマネー・サラリーマン天国――結構、結構」と画伯は入り口の大看板にある売り文句を読む。「一般労働大衆様味覚御用達――ますます結構!」。「小銭商い処」とは泣かせる。画伯は初めての来店なのに正面入口脇にある「ご常連様お入り口」から入る。

 まずは酎ハイ(三三〇円)でスタート。焼酎を炭酸で割った味は暑さ退治にぴったりの爽やかさ。定番の煮込み(三九〇円)と新潟名物・栃尾の油揚(四九〇円。ハーフは二五〇円)を頂く。この店の面白いところは、栃尾揚でも、かぐらなんばん味噌、ねぎ味噌、納豆、そしてキーマカレーチーズの四種があることだ。

「キーマカレーチーズは他所ではやっていないと思います」と洋食出身の室橋喜幸店長(三八)が言う。「そりゃそうだ。油揚にキーマカレーとは普通考えつかないよ。さすが洋食の料理人出身」と画伯は一口かじり、「う、うまいっ!」。

 この店は「日の本居酒屋チェーン」七店の一つで、高知県出身の創業者(故人)が新潟で発展させた。店名も高知出身らしく、「よさこい」というのもあり、「赤たぬき」は赤=居酒屋、たぬき=他を抜く。創業者が大好きだった「三國志」、そして天下を取る「天下一」。ここが一番古く、開店三六年目だ。

 カウンターと小上がりで五〇人の客席。午後四時開店。年中無休。新幹線の時間待ちやホテルの客も多いが、七、八割は常連客のサラリーマンだという。お手ごろなのが「晩酌セット」。お通し、二種盛り刺身、もつ煮込み、やきとり三本に酎ハイなら三杯飲める、という豪華版。

 画伯はでかいはまちのカマ焼き(七八〇円)を入念にスケッチ。終わると、今度は箸で入念にほぐし、見事、骨だけにして満悦。飲み物は酎ハイにする。

 新潟は北に日本海、信濃川と阿賀野川という大河の河口部にあたり、無数の潟が散在する低湿地帯だった。それを埋め、穀倉地帯とするとともに、河川による物資の集積地となり、西廻航路の開発で北前船の寄港地として発展した。

 「北からロシア人も来たし、京都の文化や朝鮮半島からの渡来人も多かったよね。だから新潟美人は色が白くて、エキゾチックなんだ」と画伯。さっそくフロア係のお姐さんを呼び止めて、「キミはどこの出身?」「村上です」「ほらね、色白のエキゾチック美人でしょ」――まるで我が物のように自慢する。

「私は上越出身ですが……」と室橋店長。「男はどうでもいいの」と画伯。店長は洋食の料理人から居酒屋に入ったが、「せっかく新潟でやるんだから、居酒屋で、と考えました。わたしも酒が好きだから、飲んでる人の気持ちがわかります」。

 すっかりいい心持になった画伯、「ご常連様出口はここかな」とつぶやきながらドアを開けるのだった。

※お店の情報や値段は取材当時のものです。

イラスト・大竹雄介

提供:宝酒造株式会社

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2015年9月24日号
2015年9月24日号
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2015年9月16日 発売 / 定価400円(税込)
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