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実録やくざ映画をめぐる男たちのドキュメント

『映画の奈落 北陸代理戦争事件』 (伊藤彰彦 著)

評者鈴木 智彦 プロフィール

すずき ともひこ/1966年北海道生まれ。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーライターに。著書に『ヤクザと原発』など。

いとうあきひこ/1960年愛知県生まれ。映画製作者、映画史研究家。慶応義塾大学文学部卒。98年、シナリオ作家協会大伴昌司賞佳作奨励賞受賞。2011年『明日泣く』(内藤誠監督)の製作、脚本を担当。本書が初著作。 国書刊行会 2400円+税

 ヤクザの実録書籍はモデルを考慮し、実を6あたりにブレンドする。娯楽に特化した映画は史実比がより薄い。限度はある。フィクションと抗弁しても当事者の怒りを買えば成り立たない。実録のジレンマだ。

 東映の実録路線で最悪の結果を招いたのが『北陸代理戦争』だった。公開直後、モデルになった北陸の帝王こと川内弘組長が、映画にも登場する三国の喫茶店で殺されたのだ。ヒットマンは川内の兄貴分である山口組大幹部・菅谷政雄の配下だった。川内は菅谷を押しのけ、山口組の直参を狙っていた。

 映画が直接の原因ではないにせよ、殺害の引き金にはなったろう。著者は川内の肉声を書き起こし、暴力団関係者を口説き落とし、映画関係者を絨毯爆撃し、事件とシナリオを付き合わせて『北陸代理戦争』の奈落を執拗に解体する。

 提示されるのは、殺害された川内の山口組に対する、脚本を書いた高田宏治の笠原和夫に対する、川内組報復隊の菅谷組に対する三つの挑戦だ。

「『わたしは“その人”を倒(たお)いて男になった』

 高田はこの言葉を聞き、総毛立った。(中略)高田はこの瞬間、畏敬する先輩脚本家、笠原和夫の『仁義なき戦い』を越えられると直感したという」

 実録映画の金字塔『仁義なき戦い』は、1作目から4作目までが笠原脚本、それ以降が高田作品だ。笠原色を一掃した高田の挑戦は評論家に酷評された。高田がVシネマ制作のためコンタクトした「やくざ専門のノンフィクションのライター」は、笠原を敬愛するあまり面談さえ拒絶したらしい。その高田は破れかぶれの北陸ヤクザに出会い驚喜した。血を浴びる覚悟で共感し、シナリオを書いたはずだ。

 前述のやくざ専門ライターはおそらく私だ。新宿で刺殺された愚連隊の話だったと記憶している。高田を笠原と同等に尊敬していることだけ述べ、嫉妬するほど重厚なドキュメントの読後感が消えないうちに、映画を観ることを強く勧める。

この記事の掲載号

2014年7月17日号
2014年7月17日号
スクープ撮 ビートたけし“100億円の愛人”
2014年7月10日 発売 / 定価400円(税込)
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