著者は語る 週刊文春 掲載記事

母性のままにさすらう女

『母親ウエスタン』 (原田ひ香 著)

母のいない父子家庭を転々と渡り歩く広美。一方で幼い頃世話になった広美を本当の母親と思い込む祐理やその恋人・あおいは、広美と一緒に生活することを画策する。広美は祐理らの申し出を“母親”として受け入れられるのか。母と子の感情のすれ違いを描く一風変わった家族小説にもなっている。 光文社 1785円(税込)

 脚本家として活躍後、2007年にすばる文学賞を受賞し小説家デビューを果たした原田ひ香さん。その名を一躍有名にしたのは昨年発売の長編小説『東京ロンダリング』だ。住人が死んでしまった事故物件に住むことを生業とする30代女性の再生を描いた物語は、その特異な設定も相まって注目を浴びた。満を持して上梓された長編第2弾は『母親ウエスタン』。主人公として描かれるのは、男やもめやシングルファザーなど、母親を失った家庭を転々としながら日本中をさすらう女性・広美だ。

「定職につかずに生きている人に憧れや興味があるのかもしれません(笑)。例えば、現在の東京に高卒で職も決まっていない女の子が上京してきたとしたら、その子が生きていくのは以前より大変なんじゃないか。昔に比べ社会に“遊び”がなくなってきている中でも、社会の隙間で生き延びている人はいて、そういう生活に目を向けていきたいと思っています。今回も最初に女性が放浪する話を考え、その女性性をつき詰めて、『母親になりたい』という願望だけを原動力に放浪する人物像が出来ました」

 広美は入り込んだ先々の家で理想的な母親を務め、家庭が軌道に乗ったと判断すると、またそっといなくなってしまう。一方で残された子供は、消えてしまった広美を追い求める。本書のもう1人の主人公・大学生の祐理もそう。東京で偶然に広美と再会するが、彼女が過去の子供たちのことを何も覚えていないことにショックを受ける。

はらだひか/1970年神奈川県生まれ。2006年「リトルプリンセス2号」でNHK創作ラジオドラマ大賞受賞。脚本家として活躍し、07年「はじまらないティータイム」ですばる文学賞受賞。著書に『東京ロンダリング』『人生オークション』などがある。

「広美を善人とも悪人とも書きたくなかった。ただ自分の欲望に正直なだけなんです。私自身、子供はいませんが、幼い甥や姪とはよく遊びます。他人の子でも直接触れ合っていると可愛くて大切にしたいと思う。しかし離れてしまえばそんなことは忘れてしまうんです。残酷かもしれませんが、これも母性の1つの側面だと思います」

 広美の旅する地方都市の情景の描き方も見事。まるでロードムービーを観るかのような味わいがある。

「広美を家庭に根付かせるため、地に足がついた印象のある地方を舞台にしました。対照的に祐理らが住む東京は、軽やかな場所に描いたつもりです。脚本家だったこともあって、常に頭の中に見えるシーンを文章にしている。そのせいか映像が思い浮かびやすいとよく言われますね。最近はやっと主人公の視点を取り入れた“小説”を書けるようになったと思います(笑)」

「週刊文春」編集部

この記事の掲載号

2012年11月1日 秋の特大号
2012年11月1日 秋の特大号
総力取材12ページ 角田美代子「鬼女の犯歴」
2012年10月25日 発売 / 特別定価390円(税込)
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