著者は語る 週刊文春 掲載記事

何がイマドキの若者を熱狂に駆り立てるのか

『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』 (安田浩一 著)

在日コリアンに対し、激烈な集団街宣を行なう、日本最大の「市民保守団体」在特会を、1年半にわたり徹底取材。罵声やネットでの攻撃をものともせず、メンバーに突撃取材を繰り返し、意外にも「右翼」のイメージとはかけ離れた孤独な若者の姿と、彼らを熱狂と憎悪に駆り立てる“時代の空気”を明らかにしている。 講談社 1785円(税込)

「ネット右翼(ネトウヨ)の代名詞ともなった在特会(在日特権を許さない市民の会)とはどんな組織か。そこに集まる人々の思いとは。一人一人の表情が知りたかった」

 右派系市民団体「在特会」は、“在日朝鮮人が弱者のふりをして、日本で不当な権利を得ている”とネットで訴え、いまや会員は1万人を超えた。「朝鮮学校授業料無償化反対」「外国籍住民への生活保護支給反対」を掲げ、各地でデモを展開する。

 ジャーナリストの安田浩一さんが『ネットと愛国』でこの団体の実態をルポすべく取材を始めたのは、2010年の終戦記念日だった。この日、会員2000人が東京・九段下で「靖国神社を冒涜するものは許さない」と叫び、機動隊と衝突した。

「初めて街宣を目にした時、『敗北感』に打ちのめされました。彼らの主張にまったく共感しないけれど、今の日本でこんなに情熱を発露させてくれる場はあるだろうか。彼らの主張が差別的言動を伴ったギトギトしたものだけに、それとは対照的な彼らの晴れやかな姿はうらやましくさえありました」

 幹部から末端会員まで、体当たり取材を続けた。派手な演説と動員力で「カリスマ」と呼ばれる会長の故郷を訪ねると、元同級生たちは一様に「無口で目立たない少年」だったと証言し、現在の“変わり果てた姿”をネット動画で見て唖然とした。デモでは日章旗を掲げ民族差別を口にする会員の多くは、普段接してみると礼儀正しく物腰柔らかな好青年だった。安田さんは、ある記憶に思い当たる。

「かつて取材した自己啓発セミナーで見た表情とよく似ているんです。学校や会社でうまく立ち回れない。生真面目で不安や不満を処理できない。『朝鮮人は出ていけ』『叩き殺せ』といった言葉は、彼らの抱える怨嗟の裏返しです」

やすだこういち/1964年静岡県生まれ。週刊誌、月刊誌記者などを経て2001年からフリーに。ジャーナリストとして、労働問題を中心に取材している。他著に『ルポ差別と貧困の外国人労働者』『外国人研修生殺人事件』『JALの翼が危ない』などがある。

 とはいえ、彼らは無視すべき少数派ではなく、「日本の気分そのもの」という。

「雇用不安ひとつとっても、将来の展望は閉ざされ、社会は鬱屈しています。そんななかで、特権を享受してみえる在日外国人や公務員に罵声を浴びせるのはカタルシスです。実際、在特会の街宣を見ていると、声援を送り、カンパを渡す一般市民は少なくありません。

 グローバル化に伴って、在日外国人は増え続けますし、どの政党が政権をとっても雇用不安が解決するとは思えません。厳しい生き方を強いられている人からすると、はけ口を求める動きは止まらないでしょう」

「週刊文春」編集部

この記事の掲載号

2012年6月14日 初夏の特大号
2012年6月14日 初夏の特大号
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