
働く人々の日々のおかしみを掬い取る小説集
『とにかくうちに帰ります』 (津村記久子 著)
文房具を返さない定年間近のおじさん、自己満足のためだけに人にしゃべりかける部長など職場の人々を描いた連作短篇「職場の作法」、豪雨で交通手段がなくなり歩いて帰宅する人々の心模様を描いた表題作など6篇を収録。それぞれの悲哀や矜持、すれ違いや結びつきを丹念に描き出す、働く人たちのための小説集。 新潮社 1365円(税込)
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「働いていると、理不尽なことが起こるのは当たり前。それにいちいちキレるのではなく、どう受け流すかという“うまい受け身の取り方”を書いた小説です」
会社に勤めながら執筆を続け、これまでも職場を舞台に小説を書いてきた津村記久子さん。新刊『とにかくうちに帰ります』に収められた連作短篇「職場の作法」で描かれるのは、頼まれた書類の仕上げ時刻を使い分ける同僚、社内でマスクを売りつけようとする他部署の人など、職場の様々な人たちだ。
「以前、柴崎友香さんが、彼氏よりも友達よりも、会社で隣の席に座っている人のほうが長い時間一緒にいるということに愕然とした、とおっしゃっていて、なるほど、その通り! と思いました。職場の人間関係って独特ですよね。家族や友人、恋人とは違って距離があるのが前提で、その中でどの角度をとるか、という感じ。分かり合えない部分があることをネガティヴにとらえるのではなく、そこで相手とどう付き合うかという身の処し方そのものを小説にしたらおもしろいんじゃないかと思ったんです。
この小説には、同僚の文房具を勝手に持って行ってしまう人とか、地味なフィギュアスケート選手を応援する人とか、どこか残念な人ばかり出てきます。でも、少なくとも残念なことにも面白みはある。そして面白いことは正しいことです」
表題作「とにかくうちに帰ります」は、豪雨でバスが無くなり、歩いて帰宅する人々を描いた中篇。雨に濡れながら早く家に着くことだけを切実に願う経験は、誰もが一度はしたことがあるのではないだろうか。
つむらきくこ/1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(『君は永遠にそいつらより若い』に改題)でデビュー。『ミュージック・ブレス・ユー!!』で野間文芸新人賞、「ポトスライムの舟」で芥川賞、『ワーカーズ・ダイジェスト』で織田作之助賞受賞。「こういうプチ非常時には、うっかり変なことを言ってしまう。くだらないことを口にしたり、逆に、行きずりの人に重い事情を話したり。しかも、内容にかかわらずどちらも同じように打ち明けられるところが、おかしいですよね。
これは人間の帰巣本能を描き、家のお得感をプレゼンしたような小説(笑)。帰る場所があるのは癒しになります。引き籠りが辛いのは、すでに家の中にいて、帰る場所がなくなっているからではないでしょうか」
リアリティがありつつもどこか滑稽な登場人物たち。
「現実をそのまま書くと、生々しくてみじめになってしまう。だから、どう戯画化するかを考えます。自分を登場人物に投影することはないですね。こういう状況だとどう感じるか、実感をもとに想像しながら書いています」


















